令和7年度日本学術振興会科研費(研究代表者のみ)
ハッチンソン・ギルフォード症候群は、乳幼児期から急速な老化現象を呈する極めて稀な遺伝性疾患です。出生時には明らかな病状を認めませんが、生後間もなくから強皮症様の皮膚変化や関節の拘縮が徐々に出現し、著しい成長障害を認めるようになります。さらに、骨粗鬆症、若年性動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中など、多岐に渡る加齢に関連した臨床症状を呈します。こうした病状が幼少期から顕在化することから、ハッチンソン・ギルフォード症候群はヒトの老化の分子機構を解明する上で貴重なモデル疾患としても注目されています。
日本医療研究開発機構(AMED)の研究班(旧・横手班、現・前澤班)を中心として、遺伝性早老症に関する調査研究が継続的に進められています。ウエルナー症候群、ハッチンソン・ギルフォード症候群、ロスムンド・トムソン症候群について、臨床情報の集積、患者登録、診断基準の整備、治療法の開発に向けた基礎研究など、国際的にも高く評価される研究体制が構築されています。
大分大学小児科では、全国の医療機関の協力のもと、ハッチンソン・ギルフォード症候群患者を対象とした全国疫学調査を実施しました。日本国内の患者数、診断年齢、合併症の実態などを明らかにし、国内の診療体制の現状と課題を把握するとともに、今後の包括的な医療体制の整備を目指しています。
ハッチンソン・ギルフォード症候群の患者さんとご家族を対象に、医療面に加え、日常生活や教育・福祉などの社会的支援に関するアンケート調査を実施しています。医療従事者に限らず、教育・福祉関係者とも連携し、日本の実情に即した包括的な支援体制の構築を目指しています。
老化に関連する分子病態の解明と新規治療法の開発を目的として、ハッチンソン・ギルフォード症候群のゼブラフィッシュ疾患モデルを作製しています。このモデルを用いて、疾患の発症・進行機構の解析や、新規治療候補物質の評価を行い、臨床応用につながる基盤的知見の創出を進めています。
学内外の研究機関との共同研究を積極的に推進するとともに、国際学会や米国の家族会への参加・発表を通じて、若手研究者の育成とともに世界的な研究ネットワークの形成を推進しています。
今後も国内外の研究者、医療関係者、患者団体と連携し、超希少疾患であるハッチンソン・ギルフォード症候群の診療および研究を推進します。患者さんとその家族が未来に希望を描けるような、臨床的・社会的に意義のある研究を目指します。